て、パチリとその新たなる黒の集団の真ん中へ入れた。
忠相は首をひねって、
「ははあ。そう出向いていくか」
「さよう。かくして帰路の途中、せいぜい数を殺《そ》ぐのじゃな。まず、ひとつ二つと機会あるごとにしとめて――」
といいながら、泰軒は、いま白をおいた周囲から黒石の二、三を取ってのける。
「かようにいたして、帰るまでにはもとの木阿弥《もくあみ》にしてやろうと思う」
「ウム! それがよい!」
と忠相は膝を打って、
「急ぎ後を追って、せっかくの助軍を斬りくずすことじゃ……何しろ、この援兵を敵の本城へ入れてはならぬ。俗にも申す多数に無勢、勝ちいくさが負けになろうも知れぬからな。が、はたしてそううまく参ろうかの?」
「何がだ?」
「ただいまの、帰路を擁《よう》して徐々に援助の隊を屠《ほふ》るという戦法――」
「それはこの石の手|腕《うで》ひとつにある。この石! この石! この、おぬしのいわゆる薄よごれた石じゃ!」
こう豁然《かつぜん》と胸をたたいて泰軒が笑うと、忠相もおだやかな微笑をほころばせながら、
「たのもしい石じゃて」
とチラと泰軒の顔を見やったが、やがて、
「北……と申せば道は一本みち。ただちに発足すればわけなく追いつくであろう」
「北の旅は荒谷行《こうやこう》――血を流すにはもってこいじゃ」
「が、大事な石、ぬかりはあるまいが気をつけてくれ」
「心配無用!」
言い放った泰軒、助けの石と称する黒のかたまりをすっかりわが手に納めてしまうと、いきなり二つの白石を摘まみあげるが早いか、盤の隅の黒団へ突き入れて、同時にすべてをさらいおとした。
盤上に残った黒白ふたつの石、それが中央にピッタリ並んでいる。
「もうよい! わかった」
と忠相は、ゆったりとふところ手をして、
「わしのほうの仕事はそのうえ……あとは必ずわしが引き受けるから、それまでにおぬしが力を貸して、この二石をひとつにしてくれ」
ふっと碁談がやむと、白っぽい午さがりのしずけさのなかで、どこか庭のむこうで愛犬の黒がなくのが聞こえた。
いかにして忠相は、いながらにして乾雲を取りまく一味の助勢を掌《たなごころ》を指すように知っているのか、それがふしぎと言えばふしぎだったが、忠相の今の口ぶりでは、誰か本所化物屋敷の者が、北藩中村へ助剣を求めに走っていること、疑いをいれない。
では、すぐにこれから!―
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