栄三郎はにっこりした。
「おさよという老婆を――御存じかな?」
「ナ、何? おさよがッ!……ううむ、さては埋めるところを見られたかな」
「さよう。まずそこらでござるが、不純な心をもって盗んでまいったものを、拙者はそのままに受け取ることはできぬ。で、ひとまず貴公にお返し申すによって、快く納められい」
 左膳の頬に皮肉な笑いが宿って彼は独眼をすえて栄三郎を見つめながら、しばらくキッと口を結んでいたが、やがて純粋無垢《じゅんすいむく》な若侍の真意が、暁の空のごとく彼の脳裡にもわかりかけたものか、たちまち快然と哄笑をゆすりあげて、
「うむ! おもしろい! なるほど、女めらの盗んで来たものなぞありがたく受け取っちゃあ恥になるばかりだ。ゲッ! この腕にかけて奪ってこそ、乾雲も乾雲なりゃあ、坤竜も坤竜だ。なあおい若えの、よくいった。そっちがその気なら、俺《おれ》もてめえに返すものがあるんだ」
 いいつつ左膳が、隠し持っていた坤竜を栄三郎の前に突き出すと、やッ! と驚いた栄三郎に、こんどは左膳、会心らしい微笑をなげて、
「ある女子のしわざだ。悪く思うなよ」
 と、一時坤竜を手にして大喜び、さっそく乾雲丸といっしょにするつもりでこの雪の夜中を飛び出して来たくせに、その乾雲がいつのまにやら栄三郎のもとにあり、しかもそれを相手が返すという以上、彼も武士、ここは一つ釈然《しゃくぜん》と笑って、乾坤二刀を交換せざるを得ない立場だった。
「俺とてめえはどこまでもかたき同士だが、ウフッ! 貴様は嬉《うれ》しいところがあるよ……だがな、乾雲が俺の手にはいるや否や、今この場で、てめえをぶったぎるからそう思え。かわいそうだが仕方がねえのだ」
 と左膳、左腕に坤竜をつかんで栄三郎へ突きつけると、無言で受け取った栄三郎、同時に左膳に乾雲丸を返しておいて――!
 おううッ! と一声、けもののようなうめき、
 どっちから発したものか、とっさに二人はさっと別れて橋の左右へ。
 あくまでもふしぎな夜泣きの刀のえにし。
 乾坤入れちがいになったかと思うと、同じ夜にすぐさまこうして雲はもとの左膳へ、竜は以前の栄三郎へ……
 そして今!
 しろがねの幕と降りしきる雪をとおして、栄三郎と左膳、火のごとき瞳を法恩寺ばしの橋上に凝視《ぎょうし》しあっている。
 とびすさると同時に左膳の手には、慣れきった乾雲の冷刃《れいじん》
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