たが、栄三郎が気のつくさきに、それはすぐに不敵なほほえみに消されてお艶は、無言の揶揄《やゆ》であとをうながした。
「…………?」
「しかし、お前という人柄がきょうこのごろのように豹変《ひょうへん》した以上は、拙者としては嫌でもお前の変心を認めざるを得ない。さて、人のこころは水のごときもの、ひとたび流れ去っては百の嘆訴《たんそ》、千の説法ももとへ返すべくはないな、そうであろう? これ、泣いているのか、いまさら何を泣くのだ?」
「はい……いいえ」
「拙者もさとったよ、ははははは、いや、いったんこうはっきりお前の心がおれを離れたとわかってみれば、拙者も男、いたずらにたましいの抜けた残骸《ざんがい》を抱いて快しとはせぬ。そこで、ものは相談だが、きょうかぎりキッパリと別れようではないか」
いいながら、返答いかに? と思わず栄三郎、口ではとにかく、まだたっぷりと未練《みれん》があるものか、あきらかに弱い不安を面いっぱいにみなぎらせて中腰にのぞきこんだとき、
「す、すみません」
と口ごもったお艶の声に、まさか……と幾分の望みをかけていた栄三郎は、ややッ! と驚愕にのけ[#「のけ」に傍点]ぞると同時に、あきらめきれぬ新しい慕念がグッと胸さきにこみあげてきて、
「そうか」
破裂を包んだ低声。
見せじとつとめる涙が、われにもなくにじみ出てきて――。
ワッ! とお艶はそこへ哭《な》き伏した。
「お世話に……」
「なに?」
「お世話になりましたことは、お艶は死んでも忘れません」
「フン! 吐《ぬ》かしおる」
栄三郎はすでに平静にかえっていた。
大刀武蔵太郎安国のこじり[#「こじり」に傍点]に帯をさぐって、坤竜と脇差と番《つがい》にスッポリと落とし差したかれは、刀の重みを受けて刀にゆるむ帯を軽くゆすりあげたのち、ちょっと大小の据わりをなおして、ゆらりと土間におり立った。
片手に浪人笠。
履物を突っかける……と、ブラリそのまま格子戸をくぐり出ようとした。
「あなたッ! 栄三郎様ッ」
お艶の声が必死に追いかける。が、彼は振りむきもせずに、
「達者《たっしゃ》に――」
「え? もう一度お顔をッ!」
悲涙にむせんだお艶、前を乱した白い膝がしらに畳をきざんで、両手を空に上り框《がまち》までよろめき出ると、
「えいッ! 達者に暮らせ!」
一声……ピシャリ! 格子がしまって、男の姿
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