ょう》をおもてにあらわしはしなかった。しかし、わざとしずかにきりだした低声は、彼の自制を裏ぎって微《かす》かにふるえていた。
「なぜ?――何故また今になって、さようなことを申すのだ? わたしが一命を賭《と》して乾雲を求めておることはそちも以前からよく知っているはず。言わば承知のうえで、拙者と……このようなことになったのではないか……」
「ええ――それはわかっております」
襟《えり》もとに顎《あご》をうずめて、お艶は上眼づかいに栄三郎を見た。
沈黙におちると、鉄瓶《てつびん》の湯がチインと松風の音をたてて、江戸の真ん中にいながら、奥まった露地のはずれだけに、まるで人里はなれた山家ずまいの思いがするのだった。
お向うの庇《ひさし》ごしに、申しわけのような曇りめの陽が射しこんで、赤茶けた破れだたみをぼんやり照らしている。
朝寒の満潮のような遣瀬《やるせ》ない心地が、ヒタヒタと栄三郎の胸にあふれる。
お艶がつづける。
「それはわかっております。けれどあたし、自分達の暮しを第二第三にして、そうやってお刀のことに夢中になっていらっしゃるあなたを見ると……」
「嫌気がさす――というのか」
栄三郎の声は、口がかわいてうわずっていた。
「…………」
「おいッ!」
「まあ! なんて声をなさります!」
お艶はたしなめるように言って、すぐに鼻のさきでせせら[#「せせら」に傍点]笑ったが、
「ええ。そうでございます! さようでございますよ」
と、いいきった彼女の声は、叫びに近かった。
そして、つと身体を斜めにいっそうだらしなく崩折れると、口ばやに甲《かん》高に、堰《せき》を落とすようにしゃべりだした。
「ええ! さようでございます! あなたのようなどちらにもいい子になろうとするお人は、あたしゃ大嫌い! 刀を手に入れたい、あたしともいっしょにいたい――それじゃアまるで両天秤《りょうてんびん》で、どっちか一つがおろそかになるのはきまりきってるじゃアありませんか」
「な、なんだと? どちらにもいい子とはなんだ? いつおれが貴様をおろそかにした?」
「おろそかにしてるじゃありませんか。あたしより刀のほうがお大事なんでございましょう? 刀さえとれれば、あたしなんか野たれ死にをしようとおかまいはございますまい」
「たわけめ! 勝手にしろ!」
吐き出すようにつぶやいて、栄三郎はやおら起
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