、はげしい音をたてる。
「お艶ッ!」
「だってそうじゃありませんか。この世の中に何ひとつお金でできないことがありますか。あたし、あなたといっしょになる時、まさかこんなに困ろうとは思わなかった……このごろのようにこんなみじめな装《なり》じゃあ――」とお艶は、自分の着ている継《つ》ぎはぎだらけの黄八丈の袖をトンと引っ張って、「恥ずかしくってお豆腐一つ買いに出られやしない。あたし、呉服屋のまえを通るときなんか、眼をおさえて駈けるんですよ」
「……すまない」
「すむもすまないもないじゃあありませんか、年が年中ピイピイガラガラ、家んなかは火の車だ。お正月が来たからって、お餅一つ搗《つ》けるじゃなし、持ってきた物さえ片っぱしからお蔵《くら》へ運んで、ヘン、たまるのは質札ばかりだ――ごらんなさいッ! もうその質ぐさもないじゃありませんか」
「まあ、そうガミガミ言うな。となり近所の手前もある」
「アレだ! 何かってえとヤレ手前、やれ恥辱《ちじょく》――ふん! お武士《さむらい》さんは違ったもんですよウ、だ!」
「これ、お艶!」
「はい」
「貴様、このごろいったいどうしたのだ?」
「どうもしやしませんよ」
「そうかな。見るところ、ガラリとようすが変わったようだが――」
「いいえ。どうもしやしませんけれど、あたしつくづく[#「つくづく」に傍点]考えていることがあります」
「ふうむ。なんだそれは? 言ってみなさい」
「…………」
「拙者が嫌《いや》になったらいやになったと、何ごともはっきり[#「はっきり」に傍点]申したらよいではないか」
 ことばもなくうなだれたお艶の横顔が、どうやら涙ぐんでいるふうなのに、栄三郎もふと甘いこころに返って、
「さ、いうがよい。な、改まって聞こう」
 とのぞきこんだとき、ホホホホ! と蓮葉《はすっぱ》な嬌笑とともに、栄三郎を振り払ったお艶、こともなげに軽くいい放った。
「あなた、およしなさい。お刀の探索なんか……いまどき流行《はや》りませんよ」

 夜泣きの刀、乾雲丸の取り戻し方を思いとどまってくれ……というお艶のことばは、さながら弊履《へいり》を棄《す》てよとすすめるに等《ひと》しい口ぶりだ。
 この、うって変わった一言には、さすがの栄三郎も思わずカッ! となった。が、かれも大事を控《ひか》えて分別《ふんべつ》ある士、そうやすやすと憤激《ふんげき》の情《じ
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