なろうも知れぬ不穏なたたずまい……。
 間《ま》。
 お艶はちょいと襟あしを抜いてその手の爪を噛みながら、なかばひとりごとのようにしんみりといいだした。
「いくらわたしがばかだからって茶屋女|風情《ふぜい》がこうしてあなたというおりっぱなお武家の、奥様で候《そうろう》の、奥方でござりますのと、まあ、言っていられるだけで見つけものだってことは、これでもお艶はよウく知っているつもりでございますよ。でもね、人間てものは、どうやらこうやらお飯《まんま》がいただけて、それできょう日《び》がすごしていけりゃあア、それでいいってもんじゃありませんからね。あたしだって小綺麗な着物の一枚や二枚、世間の女なみにたまには着てみたいと思うこともありますのさ」
 また始まった!――というように、栄三郎は顔をしかめて、思わず白い眼に棘《とげ》を含ませて部屋じゅうを睨《ね》めまわした。
 なんと変わり果てたお艶であろう。
 あれほど手まめだったお艶が、ちかごろでは針いっぽん、ほうき一つ手にしたことがなく、栄三郎も彼女も着ている物といえばほころびだらけ、汚点《しみ》だらけ……そのうち、一間しかないこの座敷の隅ずみに、埃がうずたかく積もって、ぬぎ捨てた更《か》え着がはげちょろけの紅《もみ》裏を見せてひっくり返っているかと思うと、そばには昼夜帯《はらあわせ》がふてぶてしいとぐろを巻いているという態《てい》たらく。
 まるで宿場女郎をぬいてきて嬶《かか》ア大明神にすえたよう――。
 そればかりではない。態度口振りからいうことまで、ガラリと自堕落《じだらく》にかわったお艶であった。
 こうではなかった。すこし以前までこうではなかった。と考えるにつけ、栄三郎は、何がかくまでお艶を変えたのか? その理由と動機《きっかけ》を思い惑《まど》うよりも、もうかれは、日常の瑣事《さじ》に何かと気に入らないことのみ多く、つい眼に角《かど》をたててしまうのだった。
 そのために、いまも昔も変りのない、犬も食わない夫婦喧嘩に花が咲いて、今日もきょうとて……。
 先刻、塗りのはげたお膳を中に、ふたりが朝飯にかかった時だった。
 なんぼなんでも、他にしようもあろうに、はぶけるだけ手をはぶいた、名ばかりの味噌汁《みそしる》と沢庵《たくあん》のしっぽのお菜を栄三郎が、あんまりうまそうに口へ運ばなかったからと言って、例によって、お艶が
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