間を縫って四、五|間《けん》遠のくや、いなや、パッ! と身を躍らして左膳のあとを追った。
みるみる去りゆく剣魔と女怪の二つの影。
それッ! と激しい下知がくだって、捕吏の一団が小突きあいつつふたりの足跡を踏んだ時は、すでに塀のそとには人かげらしいものもなく、道路をはさむ畑に薄夜の靄気《あいき》がこめて、はるかの伏屋《ふせや》に夕餉《ゆうげ》のけむりが白く長くたなびくばかり――法恩寺橋のたもとに、宿なし犬が一匹、淡い宵月の面を望んで吠え立てていた。
……櫛まきお藤、そも左膳を助けだしてどこへ伴おうというのであろうか。
そしてまた、あとに残った源十郎は?
否! それよりもかのおさよはどこに――?
たとえ乾坤二刀、夜泣きの刀のいきさつはなくとも、昨秋あけぼのの里の試合に勝って、当然じぶんのものと信じている弥生のこころが、当の剣敵諏訪栄三郎に傾《かたむ》きつくしていると知っては、丹下左膳の心中はなはだ穏かならぬものがあったことは言うまでもない。
故《ゆえ》に。
栄三郎に対する左膳の気もちは、つるぎに絡《から》む恋のうらみが多分に含まれていたのだが……。
それはさておき。
主君|相馬大膳亮《そうまだいぜんのすけ》殿の秘旨《ひし》を帯びる左膳としては、ここにどう考えてもふしぎでならない一事があった。ほかでもない。それは、かの、栄三郎と泰軒が鈴川の屋敷に斬りこみをかけて、細雨に更《ふ》ける一夜を乱戟に明かし、ようやく暁《あかつき》におよばんとしたとき、まぼろしのごとく現われて、自分等のみならず栄三郎とも刃を合わせたのち、ほどなく東雲《しののめ》の巷《ちまた》に紛れさった五梃駕籠……火事装束の武士たちの正体、ならびにそのこころざしであった。
かれらもまた乾坤|二口《ふたふり》をひとつにせんがため! であることはあの時、交戦の隙《すき》に首領らしい老人が宣示《せんじ》したところによって明らかであるが、それが、怪しきことこのうえなしと言うべきは。
そもそも……。
左膳の密命に端を発して、はからずも、過般来《かはんらい》栄三郎と左膳の間に一大争奪戦が開始されていることは、局にあたる両者と、それをとりまく少数のもの以外、そして、世動運行をあやつる宿命の神のほかは、他に識《し》る者もないはずなのに!
それだのに!
火事装束の五人組は、最初からすべてを見守っていた
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