「どうもあんまりお屋敷の評判がよくねえから」と鍛冶富も口を添え、「きょう貰《もら》いさげにでましたところが、その婆あさんがこう高え所にかまえて、おお両人とも壮健にて重畳《ちょうじょう》重畳……」
「これ、何を申す!」
 叱りつけておいて、役人達は二こと三こと相談したのち、
「いや、ほかでもないが、ただいま、浅草橋の番所へ女手の書状を投げこんだ者があって、その文面によると、ひさしくお上《かみ》において御|探索《たんさく》中であったかの逆袈裟《ぎゃくけさ》がけ辻斬りの下手人が当屋敷に潜伏《せんぷく》いたしおるとのことであるが、お前ら屋敷内にさよう胡乱《うろん》な者をみとめはしなかったか」
 いいえ!――とふたりが力をこめて首を振ると、べつに引きとめておくほどのものどもでもないとみてか、
「よし、いけ、足をとめて気の毒だったな」
 と許された喜左衛門と富五郎、にげるように先を争って駈け出したが……。
 こわいもの見たさに。
 塀の曲り角からのぞいてみると、
 同じしたくのお捕り役が二、三人ずつ、もうぐるりと手がまわったらしく、屋敷をめぐって樹のかげ、地物の凹《くぼ》みにぴったりと伏さっている――その数およそ二、三十人。
「えらいことになったな」
「だから先刻、婆あさんの手でも取ってしゃにむに引っぱり出せあよかった」
 いいながらなおもうかがっていると、捕り手はパッと片手をかざしあって合図をした。と見るや、ツウと地をはうようにたちまち正門裏門をさして寄ってゆく。
 が、喜左衛門、富五郎をはじめ、役人のうち誰も、さきほどから、鈴川方の塀の上に張り出ている欅《けやき》の大木の梢《こずえ》、その枝のしげみに、毒蛇のような一眼がきらめいて、その始終《しじゅう》を見おろしていたことを知らなかった。

 明るい陽をうけた障子に、チチと鳥影が動くのを、源十郎はしばらくボンヤリと眺めていた。
 うすら寒い静寂《しずけさ》である。
 おさよのおさまりように胆をつぶし、狐《きつね》につままれたような心持で、家主喜左衛門と鍛冶富が帰っていったあとの、化物屋敷の奥の一間。
 源十郎は、何か物思いに沈みながら、体《からだ》についたごみの一つ一つをつかんでいると、おさよの茶をすする音が、その瞬間の部屋を占めた。
「さて、おさよどの」と源十郎は、思いきったように、しおらしく膝を進めて、「今もかの町人
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