+它」、第3水準1−14−88]《しった》した。
「何者かが当屋敷に関してよけいなことを申したのを、市井匹夫《しせいひっぷ》の浅はかさに真《ま》にうけたものであろう。どうじゃ?」
「へ?」
ときき返したが、両人ともよくわからないので、モジモジ黙っていると、源十郎は続けて、
「おさよ殿を従前どおりおれの手もとにおいたとて、貴様らに迷惑の相かかるようなことはいたさぬ。源十郎、不肖《ふしょう》なりといえども、年長者の敬すべきは存じておる。いま貴様らに見せるものがあるから庭先へまわれッ!」
ホッとして喜左衛門と富五郎、うら口を離れてひだりを見ると、中庭へ通ずる折り戸がある。それを押して、おそるおそる奥座敷の縁下、沓脱《くつぬぎ》のまえにうずくまると、
「両人! 面《おもて》をあげい! おさよ殿じゃ」
という源十郎の声に、おさよがあとをとって、
「おや。喜左衛門さんに富五郎どんかえ。ひさしく御無沙汰《ごぶさた》をしましたが、おふたりともいつもお達者で何よりですねえ、はい……」
はてな! と顔をあげてよく見ると、奉公にあがったはずのおさよ婆さんが、これはまたなんとしたことか、殿様の御母堂然と上品ぶって、ふっくら[#「ふっくら」に傍点]としたしとね[#「しとね」に傍点]の上から淑《しと》やかに見おろしている。
眼どおり許す――といわんばかり。
プッ! と吹きだしそうになるのを、喜左衛門と鍛冶富、互いにそっと肘《ひじ》で小突きあってこらえているうちに、かたわらの源十郎が威儀《いぎ》をただして、しんみり[#「しんみり」に傍点]とこんなことを言い出した。
「他人の空似《そらに》とはよく申したものでおさよ殿は、死なれた拙者の母御に生き写し……よく瓜を二つに割ったようなというが、これはまた割らんでそのまま並べたも同然――なあ、孝行のしたい時分には親はなし、さればとて石に蒲団も着せられず……こうしておさよどのを眺めていても、源十郎、おなつかしさにどうやら眼のうらがあつくなるようだ」
と源十郎、芝居めかして、しきりに眼ばたきをしている。
煙《けむ》にまかれて、喜左衛門と鍛冶富は、ぽかんとしたまま帰ってゆく。
「驚きましたね、喜左衛門どん」
「いや、おどろいたね、富さん」
「一体全体どうしたんでごわしょう? へっへ、まるで女|隠居《いんきょ》。ふたりとも壮健にて祝着至極《しゅう
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