おたずね申すが、この片腕は左腕でござろうの? いや、左腕でなくてはかなわぬところ、どうじゃ」
ときいた忠相のあたまに、電光のようにひらめいたのは、当時府内を震憾《しんかん》させている逆けさがけの辻斬り、その下手人《げしゅにん》も左剣でなければならない一事だった。
で、然り――という意をふくめて驚きながら栄三郎がうなずくのを見ると、忠相は、
「然らばこの一書、貴殿にお返し申すことは相成らぬ」
きっぱり断わって、さっさと懐中へしまいこんでしまった。
無体《むたい》なことを! 刀にかけても奪還せねば! と栄三郎が面色をかえてつめよった時、見ると、相手のつれらしい侍が急ぎ足に近づいてくるので、残念ながらこの曰《いわ》くありげな二人に挟まれて、種々問いただされてはよけいなあやまちを重ねるのみと、栄三郎は倉皇《そうこう》として忠相を離れ、逃げるように露地の奥へ消えていった。
「御前《ごぜん》、こんな所にいらっしゃろうとは存じませぬゆえ、ほうぼうおさがし申しましてござります」
という声に、忠相がふり向くと与吉を追っていった伊吹大作である。
多勢とともに追跡してみたが、なにしろあの人出、一度は旅|合羽《がっぱ》へ手をかけたもののスルリと抜けられて、ついそこの通りでとうとう与吉の影を見失ったという。
「面目《めんぼく》次第もござりませぬ、いやはや掏摸をはたらこうというだけあって、なんと身軽なやつで」
「掏摸? 誰が掏摸じゃ?」
「は? あの男――」
「あれは掏摸ではない」
「すると巾着切《きんちゃくき》りで? それともちぼ……」
「たわけめ。同じではないか」
「恐れ入りましてござります」
「なあ大作。他人の懐中物《かいちゅうもの》を機をもって掠《かす》めとるを掏摸と申す」
「は」
「機によって人の袂に物品を投ずる――こりゃすりではあるまい。きゃつはある者の依頼を受けて、あの人の袂に封書を投げ入れたのじゃ。よって越前、かの町人を掏摸とは呼ばぬぞ」
「あの、手紙を? なれど御前、どうしてそのようなことがおわかりになりまする?」
と眼を円くしている大作を無言にうながして、忠相はしんから愉快そうに、左膳の書をのんだふところをぽんと一つたたいて歩き出した。
「ははあ。なるほど委細《いさい》そこに!」大作は自分の胸を打つ真似《まね》をして、
「いや、さようでございましょうとも! さ
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