ん」に傍点]と待っていると――風が出たか、古い椽《たるき》がみし[#「みし」に傍点]と鳴ったりしてなんとも物凄いようだ。
昼のうちから用意した竜神の好きそうな物をそれへ並べて、酒の燗もできている。退屈だし恐《こわ》いから、爺さんお先に手酌でちびちび[#「ちびちび」に傍点]やっていた。
と、刻限。表の戸が細目にあいて、いつもの白衣の女がはいって来た。背後を向いてさし招いている。
さてはいよいよ竜神のお成《な》り。おやじは上り框《がまち》に平伏した。足音がして誰か眼の前に立ったようす。
おそるおそる頭をもたげた主人、一眼見るよりあっ[#「あっ」に傍点]と叫んだというが無理もない。
赤くなった黒木綿の紋付にがんどう[#「がんどう」に傍点]頭巾、お約束の浪人姿が、どきどきするような長い刀《やつ》を引っこ抜いて立っている。女はにっ[#「にっ」に傍点]として戸をしめると、
「お爺さん、びっくりさせてすまないねえ。じたばたすると危ないよ。わたしの竜神はちっ[#「ちっ」に傍点]とばかり気が短いんだから、ほほほ。」
という挨拶で、あとは造作《ぞうさ》もない。おやじが口へ手拭を押こまれて、菰《
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