、あまり酒の味が好いので、竜神さまこのところすっかり嬉しがってしまい、近いうちに自身陸へ上って和泉屋を訪れ、いまだ人界に知られていない家業繁昌の秘法を親しく主人に伝授したい希望を側近の者に洩らしているとのこと。
と聞いて、今度は和泉屋が嬉しがった。どうかいつでもお越を願います。と女に頼んでみると、善は急げというからしからば明晩がよかろう。竜神のほうは大丈夫わたしが仲に立って纏《まと》めてみせるからそれではこうこう、こうして待っていて下さい。時刻は丑満《うしみつ》、わたしが竜神を御案内します――話は早い。万端《ばんたん》なにくれとなくてはずを決めて間もなく女はいそいそ[#「いそいそ」に傍点]として波間へ消えて行った。
さて、何しろ今夜こそはお顧客《とくい》の竜神がやって来て、人の知らないありがたい御法を授けて下さるというので、つぎの日一日、和泉屋の主人は上の空で暮らした。夜になるのを待って、女にいわれたとおりに家族は全部親類へ預け、召使いにも一人残らず一晩の暇をやって、これも女と約束したことだが、広い家の隅々にまで百目蝋燭《ひゃくめろうそく》を立てつらねて、ひとりつくねん[#「つくね
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