んだよ。お前さんこそ真物《ほんもの》はちゃあん[#「ちゃあん」に傍点]と隠しておいて独占めしようっていうんだろう。大方そんな量見だろうさ。」
「なにい?」
「おや、白眼《にら》んだね。おかしな顔だからおよしよ。忘れやしまいね、はばかりながらあたしゃ上総《かずさ》のお鉄だ。仕事にぶき[#「ぶき」に傍点]があるもんかね。昨日あの店で平珊瑚を盗んで、買った伽羅油で台の下へ貼りつけといて、出がけに騒がれたからわざ[#「わざ」に傍点]と身柄を見せて威張《いば》ってきたのも、こうやって後から、お前さんに取りに行って貰うためだったのさ。」
「それを俺が、今日行ってみると、なるほど油が強いから貼り着いちゃいたが、珊瑚でなくて――。」
「この碁石かい。」
「お鉄。」
「助さん。」
「ひょっ[#「ひょっ」に傍点]とすると足がついたかもしれねえな。」
「こりゃあこうしちゃいられないよ。」
 この時、がらり[#「がらり」に傍点]表の格子が開いて、早耳三次が土間に立った。
「ええ、亀安から碁石を戴きに参りました。裏表に花川戸早耳三次の身内が詰めております。まずお静かにおられましょう。」
 とずい[#「ずい」に傍
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