郡《かとりぐん》飯篠村《いいしのむら》の飯篠山城守《いいしのやましろのかみ》家直入道長威斎《いえなおにゅうどうちょういさい》が開いたもの、「此流《このりゅう》勝負を以仕立教也《もってしたつるおしえなり》」とその道の本にさえあるところを見ると、よほど攻めを急いだ実用一方の太刀筋であったらしい。自暴自棄な年若の大之進が腕ができるにしたがい人斬り病に罹《かか》ったのも、狂人《きちがい》に刃物の喩《たと》え、無理からぬ次第であったとも言える。人が斬りたいばかりに天狗へ走った大之進も理窟が嫌いなところからまた江戸へ舞い戻ってみると、天下は浪人の天下、攘夷の冥加金《みょうがきん》を名として斬奪群盗《きりとりぐんとう》が横行している始末に、大之進つくづく考えると徳川三百年の余命《よめい》幾何《いくばく》とも思われない。なんらかの形で近く御治世に変革があるものと観なければならないが、そうなった暁先立つものは商法の金子《きんす》であろう。その資金の調達には夜盗が一番|捷径《ちかみち》だが、押込みの方は浪士が隊を組んでいるから自分は一つ単独行動に辻斬と出かけてやれ、それも盗賊改めが厳しいので、駕籠でも担い
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