おれが、指一本さすことができようか――。(間)あの抗愛山脈の肩に、ぽうっと暁の色が動き初めると同時に、おれの心にも、夜が明けた。おれは合爾合《カルカ》に負けた。札木合《ジャムカ》! 君は幸福な男だ。合爾合《カルカ》のような立派な女を妻に持っているとは、(こころの底から)おれはほんとうに羨ましいぞ。
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札木合《ジャムカ》と台察児《タイチャル》は、うなだれて聴き入っている。
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成吉思汗《ジンギスカン》 札木合《ジャムカ》! このまま行ってしまうことは、おれにはどうしてもできなかった。おれは、君の前に、こうして、手を突いて、心の底から謝罪《あやま》りに来たのだ。どうか、許してくれ。な、どうか許してくれ。
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札木合《ジャムカ》兄弟は、呆然と佇立している。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (朗かに起ち上って)ああ、これでさっぱりした。身体中の汚れを洗い流したような気がする。(友達に対するように、無邪気に)では、札木合《
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