一本ふれなかった? ははははは、だ、誰がそんなことを信じるものか。これ、合爾合《カルカ》! 城も民も何もかも失っても、わしにはお前があると思っていたのに、軍には負け、お前まで辱しめられて――ああ、おれはどうすればいいのだ!
合爾合《カルカ》姫 (必死に)どうぞお聞き下さいまし。妾の申し上げることを、お信じ下さいまし。成吉思汗《ジンギスカン》は妾を、敵将の妻として、厚く礼遇《もてな》してくれましただけで、ほんとうに何事もございませんでした。
札木合《ジャムカ》 (合爾合《カルカ》を突き退けて)姦婦!
合爾合《カルカ》姫 (冷笑)まあ、何をおっしゃいます。たかが女一人のことで、一城の主ともあろう方が、そんなに取り乱されるとは、ちと見苦しくはございませんか。
札木合《ジャムカ》 ええい、言うな、姦婦! おれは貴様に、死に勝る苦しみを味わされたのだぞ。うぬ、そこ動くなっ!
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発作的に、長剣を抜き放つ。
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合爾合《カルカ》姫 あれ、あなた、狂気されましたか。そのようなお心では、こうして成吉思汗《ジンギスカ
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