、牧民、老若男女、雪崩を打って逃げ出て来る。赤子を抱いた女、孫の手を引く老人など。同時に、包囲軍からの矢、おびただしくこの望楼に飛来して、避難民ら口々に絶叫し、一隅に集《かた》まって顫え戦《おのの》く。
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台察児《タイチャル》 畜生、集中射撃だな。(振り返って)またここまで騒ぎ立てて来たか。手兵は足らず、食糧は乏しい城に、城下の者まで逃げこんで、この上の足手纏いはない。
避難民中の女 (嬰児を庇いながら狂的に)御城主の弟様、軍はどうなるでございましょう。私どもはもう、好皮子《ナイビイズ》一つ口にせず、敵に殺されるより先に、飢え死にしそうでございます。
同じく老人 (半狂乱に手を合わせて)台察児《タイチャル》さま、どうか部落民を助けると思召して、城をお開き下さりませ。悪魔のような成吉思汗《ジンギスカン》の軍勢とて、よもや老人子供に害は加えますまい。
台察児《タイチャル》 ええい、言うな! 穀潰しめ! 言うに事を欠いて、この台察児《タイチャル》に向って降伏をすすめるとは何ごとだ。どうせ食い物の足らぬ折柄、貴様らを射殺して
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