――。
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と避難民の群れへ弓をさし向けて、威嚇のために空弦《からつる》を放つ。城中から軍卒一人走り出て叫ぶ。
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軍卒 札木合《ジャムカ》の殿様が、ただいまこれへおいでになります。
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四五名の参謀を従え、長刀を抜き放った城主|札木合《ジャムカ》が、急ぎはいって来る。
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札木合《ジャムカ》 (部落民を射ようとしている弟を見て)台察児《タイチャル》! 長の籠城、しかも、今日明日という負け軍に、貴様、気でも狂ったのか。城下の民へ弓を向けるとは何事だ。
台察児《タイチャル》 だが、兄上。城を開いて、自分たちが助かりたいなどと、けしからんことを言う者がありますので。
札木合《ジャムカ》 それも無理ではない。この籠城は、単なる合戦ではないことが、城下の者どもに解らんのは当り前ではないか。蒙古戦国の世だ。軍馬のいななき、弓矢の唸りはいつものことだが、この戦争には、裏に、根深い気持ちが罩《こ》もっているのだ。
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