ざります。武芸並ぶ者なく、ことに、強弓衆に優れ、矢面に立つもの必ず額を射抜かれると申すこと。人々彼を怖れて、蟒《うわばみ》と綽名《あだな》いたす強《ごう》の者です。
札木合《ジャムカ》 (遂に恐怖を押さえきれず)大海の捨て小舟のようなこの山寨だ。逃げようにも逃げられぬ。
台察児《タイチャル》 (足摺りして)ええい! 皆がみな敵を賞めくさりおって! 揃いも揃って臆病神に取り憑《つ》かれたか。兄上! もはやこれまでです。城を出て、塔米児《タミイル》の河畔に決戦いたしましょう。どうぞこの台察児《タイチャル》に、三百でも五百でも、ありったけの城兵をお貸し下さい。
札木合《ジャムカ》 (すっかり怖毛《おじけ》立って)いや、貪る鷹のような成吉思汗《ジンギスカン》軍のいきおいだ。成吉思汗《ジンギスカン》は、総身|銅《あかがね》のように鍛えられ、土踏まずや腋の下にさえ、針も通らぬというではないか。一睨みで、虎をさえ居竦《いすく》ませると言うではないか。(と恐怖に眼を覆い、たじろく)
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砦の下から伝令一人、石垣をつたわって上ってくる。
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