になった数だけわたしがお前さまをぶち返せば、わたしは決して金剛寺坂へ帰りは致しませぬ」
「どうするのだ。うふっ、尼にでもなるというつもりだろうが、その手に乗るおれじゃあねえんだ。離縁状を握って、お前《めえ》が若松屋へ飛び込んでいくのは、おれには眼に見えているんだ」
「では、どうあっても、去り状はお書き下さらないとおっしゃるのでござりますか」
「いや、書く。書こう」
「え! お書きくださいますか」
「うむ。書こう。離縁状を書いてやろう」
「それでは、あの、ほんとに書いてくださいますのでございますか」
「いかにも書こう」
「そうでございますか。ではすぐ――」
「待て!」
「ほら、いま書いてやろうとおっしゃったのは嘘でございましょう」
「いや、書く。望みどおりに縁切り状を書いてやる。そのうえで、おれが若松屋をなぐった数だけ、お前になぐられもしょう」
「それはほんとでございますか」
「うそはいわねえ。が、そのかわり、こっちにも一ついいぶんがあるのだ」
「はい。そのいいぶんと申しますのは?」
「おれがおめえのいうなりにするように、おめえにも、おれのいうとおりになってもらいてえのだ」
「それは、何
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