あった。
龍造寺主計は、別に立ち聞きするつもりで来たのではないが、そこまで来て、室内《なか》に若松屋惣七とお高の話し声がするので、立ちどまって、はいろうか引っ返そうかとためらっているうちに、自然話が聞こえて立ち聞きすることになった。彼は、そんなことをしている自分がいとわしくなって、何度も、咳《せき》払いでもして姿を出そうか、それとも爪立《つまだ》ちして庭のむこうへ帰ろうかと思っても、足が動かなかった。からだがきかなかった。
で、そうやって聞いていて、彼は初めて、お高と若松屋惣七の関係と、若松屋惣七に対するお高の気もちを知ったのだ。龍造寺主計は、それを知っても、失望も怒りも感じないのだ。そういうよけいな感情は、長いあいだの放浪で、彼はすり切らしていて持ち合わせがないのだ。
ただ龍造寺主計は、すべてがはじめてわかったような気がした。じぶんが掛川へ行く前にお高に嫁に来てくれるようにといったことがあるが、あのときお高が困ったようなようすを見せて、断わりにくそうに断わったわけも、読めた。
龍造寺主計は、あれ以来掛川で奮闘して、お高を迎える日をたのしみにしていたのだし、今度出て来たのも、実
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