は何か感違いをしているのだ。おいらは――」
「もうよしておくれよ。聞きたくもない」
「そっちは聞きたくなくても、こっちはいいてえのだなあ、お駒ちゃん、お前《めえ》はそんな情けないことをいうが、お前のこころはおいらにわかっているし、おいらのこころはお前にわかっているのだ。何もいざこざはねえのだ」
 磯五が、妖《あや》しく光るような、不思議なうす笑いをうかべて、そろりそろりと近づいてくると、お駒ちゃんは、太腿《ふともも》のあたりに何かぴりりと走るものを感じて、泣き出しそうな笑い顔になって立ちすくんでいた。
 ふり解《と》きようのない魅惑がお駒ちゃんをつかんで、磯五とのあいだに持った場面の一つ一つがお駒ちゃんの眼のまえを通り過ぎた。それは、お駒ちゃんが、宝もののように大事にしている記憶であったが、そのために、木更津屋やこの小屋裏で日本一太郎とならんで寝ているときに、お駒ちゃんは夜中に眼が冴えて眠られないで困ることがあった。
 いまその夢の中の磯五が、白く笑って、もとよくしたように、お駒ちゃんの肩に手をまわそうとしたので、お駒ちゃんは溜息をついて自分のほうからすり寄ろうとしたのだが、そのとき、
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