で、磯屋五兵衛というのですよ。磯五というのですよ」
二
「なに、あの磯五さん――?」
日本一太郎は、おどろきを隠しようもなく、はっと顔いろをかえたが、それよりもお駒のほうがびっくりして、
「お前さまは磯五をご存じなのかえ」
ときくと、日本一太郎はすぐになにげなく装って、
「知らねえこともねえが、識《し》っているというほどの仲でもねえ。いま江戸で磯五といえあ、流行《はやり》の太物商売として、まず、名の聞いたことのねえものはなかろうじゃないか」
何だかへんだとは思いながら、お駒ちゃんも、ふかく追窮《ついきゅう》しようとはしなかった。
「あい。その磯五さ」
吐き出すようにいって、また欄干越しに、下の藤代町の狭い往来をこね返している雑沓へ眼を落とそうとすると、
「お駒ちゃん、一|風呂《ふろ》、ざっと流してこようじゃあねえか。おいらはこんな老人《としより》だから、おめえとおいらといっしょにへえっても、誰も笑やあしねえよ」
日本一太郎が、いった。そして、手ぬぐいを取ってたち上がると、お駒ちゃんもついて来た。
実の娘であるはずのお高に対しても、またそのめんどうをみている若
前へ
次へ
全552ページ中471ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング