「おお。今のさきもどった」
「あの、麦田様も――」
「うむ。一八郎ももどった。午睡《ひるね》をしている。おせい様と歌子は、たったよ」
「して、旦那様はいつごろ御発足でございますか」
若松屋惣七と麦田も、あとから二人の女に追いついて、東海道を旅することになっているからだった。
「わからぬ」若松屋惣七は、陽のおもてを雲がはくように、急に不きげんになっていった。「お前にお前の用があるように、わしにもわしの用がある。磯五はどうした? ちょくちょく会っておるのだろう――」
お高は、父といいこの人といい、じぶんはやっぱりひとりなのだと泪《なみだ》ぐまれてきた。
藤代町の宿
一
若松屋惣七は、お高に案内させて、両国の小屋に日本一太郎をたずねた。裏へまわって、楽屋番に小粒をつかませると、まもなく筵《むしろ》をはぐって、舞台着のままの相良寛十郎が出て来た。お高と、つれの若松屋惣七を見ても、べつにおどろいたようすもなく、近づきになりたいからそこらの食べもの屋までつきあってくれないかという若松屋惣七の申し出にすぐに同意して、着がえを済ましてつれ立って歩き出した。
三人は
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