な、ほのぼのとした笑い声で、どんな場合にも人に好感をいだかせずにはおかない、一種の魅力がこもっていた。
「これは驚いた! おどろきました」
磯五はこういって、お高と若松屋惣七を交互に見たが、ほんとは、口でいうほど、さほどおどろいてもいないようすだ。茶坊主あがりだけに、円頂を隠すためであろう。茶人頭巾《ちゃじんずきん》のようなものをかぶって、洒落《しゃれ》た衣裳を着けている。
長らく大奥につとめたという、その品位はさすがに争えないもので、香をたきしめたように、彼の身辺に漂っているのだが、こうしていると、ちょっと見たところ、磯五という大きな太物屋の旦那とよりは、まず俳諧《はいかい》の宗匠と踏みたいのである。
すらっとして優男《やさおとこ》で、何よりも、その顔だ。じつに美男で――美男というと、いやにのっぺり[#「のっぺり」に傍点]しているように聞こえるが、のっぺりしていない美男なのだ。何といったらいいか、――大きな眼が澄んでいて、顔だちがすっきりしていて、官能的な口の両端が皮肉に切れ上がっていて、とにかく妙に女好きのする顔だ。
ほがらかな表情のまま、じっとお高を見ている。
お高は、
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