ません」
磯五のことばに、おせい様が黯然《あんぜん》とうつむくと、磯五は、そのほっそりした項《うなじ》へそっと唇《くちびる》を持って行った。
七
すこしよくなるとすぐ、お高は、小石川へ帰って、一空さまといっしょに、深川かなめ橋のそばの木場の甚をたずねて行った。待っていた木場の甚は、お高にいろいろのことをたずねたのち、だいたいこれが柘植のおゆうさまのひとり娘に相違ないとはわかったが、大きな財産に関することなので、こんどは自分のほうで手をまわしてなおよく調べているからといって、一応お高を引きとらせた。
もう半ば以上、木場の甚が預かっていた柘植家の財産がすっかりお高へくることになったようなものだが、こうして急にとほうもない女分限者になることになったものの、お高のこころは、すこしもはずまなかった。よろこびのあまり、夢を見ているような心もちになりそうなものだが、そうではなかった。ただ馬鹿ばかしい気がしているだけだった。自分は、今さらお金持ちになぞなるよりも、このままでいいと思っていた。
が若松屋惣七のことを思うと、それだけの資財を擁して、彼とともに楽しみうる生活を考えて、
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