なかろうか。そういうことがあるものであろうか。お高は、運命の恐怖といったようなものを感じて、身内がしいん[#「しいん」に傍点]となった。
「さよう」一空さまが、答えていた。「金を持ち逃げして、京阪《かみがた》のほうへまいってな、ほかの女といっしょになっておった。それから、何でも一旗あげるとか申して、江戸へ帰って来たのじゃが――いや、よそう。あんたの前で亡《な》き父御《ててご》をののしるようになる。面白うない。わしも、気が進まん」
 一空さまは、思い出したように哄笑《こうしょう》して、お高を見た。


    九老僧


      一

 そのころから、一空さまは諸国の禅林をまわって、相良寛十郎はもとより、おゆうとも音信不通であったというのだ。おゆうの死んだことは聞いたが、それ以後いっそう、寛十郎に対する一空さまの関心は消えて、ふたりのあいだにお高の高音というものが残されたことまで、今まで知らなかったというのだ。
 が、あの莫大なおゆうの財産は、一空さまもときどき思い出して、どうなったであろうと思っていた。しかし、和泉屋がその一部であるという事実は、忘れるともなく忘れていたのだ。それが
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