空さまはきっとまた母のおゆうのことを話しに来たのであろうと思った。
 お高は、父の相良寛十郎が少しも母のことを話さなかったのみか、お高のほうからきいても、いつも避けるようにするのが、父の生きているころから、不服でもあり、不思議であった。今でも、そう感じていた。生母のことを詳しく知らないのが、情けなかった。誰かと、しみじみ母のことを話し合いたかった、だから、よく母を識《し》っているという一空さまの訪問は、お高にとって、いつでも歓迎すべきものだった。
 ことに磯五といっしょになってからは、まもなくその磯五とこうして別居したり、あちこち奉公した末この若松屋へ来て、近ごろは、またその磯五があらわれてあんな事件がつづいたりして、昔はよく顔を知らない母を想って泣いたものだったが、ここしばらく、忘れるともなく、忘れていたのだ。
 そこへ突然、母の遠縁に当たって、いろんな事情を知っているらしい、一空さまという人が現われたのだ。母の人間と、その生活と死とは、すべてこの人が話してくれるであろう。一空さまは、自分の知らない母の顔を見、声を聞き、手に触れ、そして母を恋した人なのだ。何と、信じられないほど不思議
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