という人間は、冷たい人間だが、お前を熱く想《おも》っておるのだ。あすにも、いや、きょうにも、あらためて、女房になってくれというつもりでおった。もそっと、こっちへ寄れ」
 が、お高は、肩をすぼめて、かえって身をひくようにした。真《ま》っ蒼《さお》な顔が、いまにも気絶しそうにそって、うしろへ手を突いた。
「何だ。いやなのか。そんなに、わたしが恐ろしいのか。よし。そんなにいやがるものを、いまどうしようともいいはせぬ。しかしお高、その茶坊主はお前の良人かもしれぬが、わたしとお前のあいだも、妻と良人も同然であることを、忘れぬようにな。ははははは、つまりお前には、良人が二人あるのだ」
「どうぞ、そんな、あさましいことをおっしゃらずに――」
「あさましい? こりゃ面白い。何があさましいのだ。男が、好きな女をくどくが、あさましいか」
「でも、わたくしには、いま申し上げましたとおり、良人があるのでございます。たとえ家出して、行方知れずになっておりましても――」
「ふん、そんなら、どういう気で、わたしとこういうことになったのだ。一時の気の迷いか」
「――」
「それみい。答えられまいが。お高――」惣七の声は
前へ 次へ
全552ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング