いる人だった。若い女は、その許婚《いいなずけ》の女であった。ふたりは、きょうのことを聞いて、子供たちを遊ばせに来たのだった。男が横笛を吹いて、女が、それに合わせて優雅な踊りを踊ったりした。男が、若い者にかつがせて来た菓子包みを、子供たちに配った。
 もう一人の中年の女の人は、やはり一空さまをあがめて、洗耳房に出入りして子供たちの世話をしている、お由《よし》さんという近所のおかみさんだった。お由さんは、しじゅうお高のそばにいて、赤い顔をしてはしゃぎ[#「はしゃぎ」に傍点]まわっている子供たちについて、何くれとなく話してくれた。
 一空さまは、子供たちに取りまかれて、あっちからもこっちからも引っぱられて、にこにこ笑っていた。針のように細い眼がいっそうほそくなって、すっかり見えなくなっていた。
 お高は、その、耳がわんわんする中で、さっき一空さまがいった、父や母のことを考えていた。母のおゆうが、とてつもない分限者であったというのが、どうしても腑に落ちなかった。それかといって、一空さまがふざけているとも思えなかった。人違いではなかろうかと思った。
 母のことは、顔も思い出せないし、何一つ遺品《
前へ 次へ
全552ページ中327ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング