問題の万屋であった。
和泉屋《いずみや》という金看板が、風にきしんで、鳴っていた。
「あれじゃ。割りこんで参って、この騒動を起こしたのは」
一空さまが、指さした。
五
和泉屋は、間口の広い、立派な店である。米、味噌、醤油、酒、油、反物、筆墨、小間物、菓子、瀬戸物、履物類その他日用品一切が、きちんとならんでいる。そこらに売っているものは、何でもある。しかも、体裁がよく、品質もまさってるのだ。そのほか他店よりも値段がやすい。
それで客のはいらないわけはないのだが、店には大勢の番頭小僧のほか、客といってはひとつの人かげもない。品物と店員だけで、がらんとしてるのだ。買い手どころか、近よる人さえないのだ。手持ちぶさたに見える。襲撃に備えて、出入りの鳶《とび》の者などがそれとなく店の周囲を固めていた。
「何とも、奇妙な話じゃ」
一空さまが、つぶやいていた。それは、お高の母のことのようでもあり、またこの和泉屋のことのようでもあった。
「何がそんなに奇妙なのでございましょう」
お高がきくと、
「いや、あんたは、何も知らんようだが、この和泉屋というよろず屋は、江戸中に三十何軒
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