そっくりなくしまして、それから、あちこち奉公に出ましたのち、ただいまはこの若松屋様に御厄介になっておりますのでございます」
一空さまは、急に思い出して、たち上がった。
「お、餓鬼どものことを忘れておった。さ、洗耳房へ参ろう。やんちゃども、待ちくたびれておるに相違ない」
三
風のひどい日だ。空がうなっているのだ。樹々は、髪を振り乱して泣き叫んでいる狂女のむれだ。眼に見えないうずまきが、玉のように往来をころがって行って、家々の塀《へい》にぶつかって爆発するのだ。砂けむりが上がっていた。いつのまにか来て江戸をかきまわしているのはこの眼も口もあけない暴風だ。
お高は、夢にいた。親戚《しんせき》のひとり、母方の血縁の人が、みつかったのだ。これは、思いがけないことだ。じぶんには親類はないのだろうとあきらめてはいたが、それでも、あればいいと、この年月ひそかに心にかけて捜していたのだ。それが、わかってみると、隣の慧日山金剛寺の一空さまなのだ。ありがたい、このお人なら、たよりになる。これから何かと相談相手になってもらおう。
しかし、その一空さまが、何か悲しい話を持っていそうなのが
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