ると若松屋惣七が、呼びとめた。
「わしの従妹の歌子というのが、お前に会いたいというておるのだが、今夜いっしょに行かぬか」
「どうぞお供させてくださいまし。でも、歌子様は、わたくしのようなものはおきらいでございますまいか。歌子さまとおっしゃいますのは、よく旦那様がお噂なさいます、あの、薙刀《なぎなた》や柔術《やわら》のおできになる方でございましたね」
「そうだ。近く片瀬の龍口寺へ詣《まい》ると申しておった。きのうは久しぶりに会うて、お前のことをいろいろ話してまいった」
 お高は、さっと暗い顔になった。若松屋惣七は、それを感じて、いそいで話をついだ。
「いろいろと申したところで、例の、お前が知られたくないと思っておることは、いいはせぬ。しかし、それも、考えてみると、皆に聞こえたところで、いっこうさしつかえないではないか。お前が、かの磯五という極道者につながれておるということは、何もお前の罪ではないのだからな」
「いえ。そればかりは、わたくし」お高の声は、苦痛と恥辱で、今にもこわれそうだ。「考えるのもいやなのでございますから、どんなことがありましても、人さまに知られたくはございません。そんな
前へ 次へ
全552ページ中301ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング