りでお眼にかかったのに、高音さまが、旦那様のことをおっしゃらないので、妙だと思っておりましたが、そういうわけでございますか」
「何でも、じぶんの好きなように暮らすのだとかいいましてな、ただいま別居していますよ」
「それはそれは、お困りでございましょうねえ。あんなおとなしい高音様が、どうしてそんなお気になったのでございましょう。でも、おっつけ人でも立ててお帰りになることでございましょうよ」
「そう思って、待っているのだが、まあ、それはそれとして、用のはなしにかかりましょう」
 仕事や給料のとりきめをしながら、磯五はあわただしく考えていた。
 このおしんが、昔のじぶんを知っている以上、そしてまた、高音に会ったりしているのだから、この女を放しておいて、勝手にしゃべらせるのは、じぶんにとって危険でないことはない。しかし、いまいった高音の家出のつくり話を、おしんは信じるであろうか。ふたたび高音にあうことがあるであろうか。じぶんから、好奇心をもって、高音を探したりすることはないであろうか。
 磯五は、いろいろに考えたすえ、こういう女は、手もとにおいて、しじゅう限を届かせてにらんでいるにかぎると思っ
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