の誰だったっけね。あたしがこんなことをする気になったのは、お前さんとの約束があったからだよ」
お駒ちゃんの声は、だんだん大きくなるのだ。
「さあ、あの約束はどうしたんだい。それを聞こうじゃないか」
磯五は、美しい眉をしかめて、お駒ちゃんをみつめた。
「そんなことをここでいい出すものじゃない」
「いい出すのじゃないって」お駒ちゃんは、泣き声になってきた。「あたしが黙っていれば、お前さんはいつまでたっても知らん顔の半兵衛じゃないか。いやだよ。誰がそうそうおあずけを食わされているもんか」
そとに気をかねて、障子のほうを見た磯五の顔には、その美貌《びぼう》のかわりに、みにくい表情があった。それは、異様にかがやく眼と、剛情に突きでた顎だけであった。
「忘れちゃいねえ。が、ここでそんなことをいわなくてもいいだろうというんだよ。おれもいそがしいからだだ。あんまりせっついてくれるな」
「おや、お前のような人でも、忙しいということがあるのかねえ。はい。さぞかしお忙しゅうございましょうとも。笑わせるよ。おおかた、後家さんにうまいこといってお金をしぼるのに忙しいんだろうよ」
五
手を
前へ
次へ
全552ページ中239ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング