とたのんでいるばかりか、こうして何年ぶりかに、女として、人間的な愛をすら感じ出している。
 どうせ、何か、いわくのありそうなやつとはにらんでいたのだが――若松屋惣七は、裏切られたような気がした。このうえなく、不愉快になってきた。
 お高は、手をそろえて畳に突いている。そのうえに、頭を押しつけたままだ。髱《たぼ》と肩が、こまかくふるえている。泣いているらしい。
 若松屋惣七は、火桶《ひおけ》を抱きこんで、ふうむと口を曲げた。考えこんでいるのだ。
 二百五十両といえば、大金だ。女の身で、ひとりでその借金をしょっているのだ。それがみんな衣類を買った代だというのだ。利口なようでも、やはり女だ。馬鹿なやつだ。しかし、何しにそんなに、着物ばっかり買いこんだのだろう? また、磯五ともあろうものが、どうしてそんな額にのぼるまで、貸し売りを許しておいたのだろう?
 どんな生活をしていたのか、知れたものではない。払いを逃げまわっていたあいだも、どこで何をしていたのか――そのお高を、今までかなり信用して、ある程度まで取り引きの秘密にも参与させてきたのだ。そう思うと、若松屋は、いやな気がした。自分がうかつだっ
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