してまいった」
「それは、不思議なことですね。じつはきょうわたしは、この若松屋を売る手打ちをするつもりでおりましたよ。そのまぎわに、あなたという人が、金をもって助け船にあらわれるとは、まるで、作ったようなはなしでございますねえ」
「何でもいい。ぜひその具足屋へ、半口割りこませてもらいたいのだ。私は、田舎《いなか》が好きだ。掛川は、何度となく通っておるが、いいところです。ひとつ、出かけて行って、自分でやってみたいと思っておる」
若松屋惣七は、まだ半信半疑のていだ。仮に、この龍造寺主計が、いまそれだけの現金を用意して来て、具足屋につぎ込もうとしているのは、たしかな事実であると知っても、若松屋惣七は、とび立つように礼などはいわなかったに相違ない。ふかく知らぬ人間に、また、深く識っている人間に対しても、決して飛び立つように礼などはいわぬ若松屋惣七なのだ。
うれしそうな顔も、しなかった。が、それだけの金がはいれば、それを磯五にたたきつけてやって、おせい様のほうをきれいにすまして、具足屋のほうも、急場をしのぐことができるのである。
若松屋惣七は、願ってもみたことのない転換が、紙一まいのところ
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