かに、生きていらっしゃるのでございます。この江戸に」
「あんたは、その女を、知っているのか」
「はい。よく存じておりますでございます」
「若松屋さんも、承知か」
「磯五の内儀は、ご存じないようでございますが、その女が江戸におられますことは、ごぞんじでございます」
「どうしておる、その磯五の妻は」
「良人の磯五さんにすてられましてから、別人のように、かしこくおなりでございます」
「すると、以前は、馬鹿な女であったのかな」
「はい、何ひとつ世間さまのことを知らぬ、愚かなおなごでございました」
「さようか。わたしは、この若松屋惣七という人が好きである。いま会うたばかりだが、何年、何十年|識《し》っておっても、きらいなやつはきらい、ちょっと見たのみでも、これはと思う人は、このもしくなるものだ。友情とは、そのようなものです。ところで、何とかできぬかな。若松屋を助ける方法だが」
三
龍造寺主計は、うすぎたない旅の浪人だが、龍造寺主計は、単に子供が好きだというだけで、久しぶりに江戸へ出た記念《しるし》に、縁もゆかりもない金剛寺の一空和尚の学房へ、いささかまとまったものを献じただけで
前へ
次へ
全552ページ中207ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング