てあら[#「あら」に傍点]を探してのことで、見ようによってはかえって、すごい美しさを加えている顔である。
ちょっと膝《ひざ》をついて背後《うしろ》をしめる。向き直って、三つ指を突いた。お高である。お屋敷ふうなのだ。
「あの、お呼びなされましたか」
「おう。茶が一ぱい飲みとうなった。風で、ひどいほこりだな」
惣七の癇癖《かんぺき》らしい。眼の不自由な人のつねで、指さきの感触が発達している。いいながら、畳をなでた。風が土砂を運んできてざらざらしている。顔をしかめた。
「咽喉《のど》が、かわく。雨も、久しく降りませぬな。いつであったかな。後月《あとげつ》の半ばであったかな、降ったのは」
「はい。いいおしめりが一つほしゅうございます」
「茶を、もらおう」
「はい」
お高は、切り炉へ向かって斜《はす》にすわって、ふくさを帯にはさんだ。湯加減をみて、ナツメを取りあげた。薄茶をたてようというのだ。
「もういらぬ」
惣七がいった。
「は!」
お高は、顔を上げた。不可解の色が、お高の貌《かお》をあどけなく見せている。そのせっかくの美しさが、よく惣七に見えないのが、惜しかった。
惣七は、いらい
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