たけ》といってな、人はみな、竹女《たけめ》と呼んだ」
「はい」
「若竹という名を、聞いたことがおありかな」
「いいえ」
「江戸までは、届かなんだかもしれん。京大阪では、たいそうな人気であった。何でも、生まれは江戸で、幼少のおりにあちらへまいったとのことであった。江戸の生家は、相当の家であったらしいが、竹女は、何もいわぬから、知れておりませぬ。
とにかく、上方で芸人として名を成した。一時は、大変なものであった。金も作った。が、そこへ男が現われて、竹女はその男へ、身も心も与えたのだ。この男こそ、義理も人情も人のまこともわきまえぬ、けだもののごときやつであった。それがあの磯屋五兵衛である。当時何と名乗っておったか、覚えておらぬが、顔は忘れぬ。あの男です。
あの男が、竹女のあとをつけまわして、金をまき上げた。夫婦約束までして、おんなの心を釣っておいた。きょうあすにでも、晴れの式をあげるようなことをいって、女をだましたのだ。外眼《そとめ》にも、竹女はあの男の手足であった。すべていうがままになって、男のためには何でもしたのです。何もかもささげたのだ。病を押してまで働いて、金をみついだ。
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