したが、むこうで会うたこともあるし、わしは、人の顔を見違うことはない。この顔だ。盛り場の人込みで一瞥《いちべつ》しても、識別いたす。この顔です」
一空和尚が、はじめて口を出した。
「何だ。面白うもない。喧嘩《けんか》は取りやめかい」
吐き出すようにいって、本堂のむこうにある自分の庵室《あんしつ》のほうへ、どんどん帰って行った。
磯五は、終始《しゅうし》口ひとつきかなかった。平気な顔だ。さっさと実朝の碑のほうへ歩き出していた。そっちを廻わって、門を出てゆこうというのだ。その磯五のあとを見送っていた龍造寺主計に、瞬間、ふたたび激しい憎悪がひらめいたが、しずかに話しながら、お高とならんで、おなじく帰路につきかけた。ゆっくり、あるいた。
「もう若松屋惣七どのにお眼にかかって、たずね人に力ぞえをたのむ要もなくなった。運命が、若松屋殿の役目をしてくれた。日本橋の磯屋五兵衛なるものが、きやつであるとわかっておれば、あとは、いつでもよい。いつでもできる」
境内から樓門《さんもん》へかかったときは、先に出た磯五のすがたは、もう通りのどこにもなかった。
お高は、磯五と、その旅の武士《さむらい》と
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