ことはございますまい」
「まあ、聞きたまえ。ひとつ、聞かせてやろう。剣を弾じて、うたうのだ」
六
馮驩《ひょうかん》その剣を弾じてうたう。と、口ずさみながら、龍造寺主計は、うしろざまに手をのばして、まくらにしていた長刀を、とりあげた。お高が、ぎょっとしているうちに、すうと抜いた。お高は、あっと小さく叫んで、思わず膝を上げようとした。
そのとき、龍造寺主計の歌声がしていた。それは、詩吟のようでもあり、長歌のようでもあり、俗謡のようでもあった。おそらく、彼自身の独特の調《しらべ》なのであろう。不可思議な節まわしで、はじめは低く、お高があっけにとられているうちに、だんだん高くなっていった。
「今日《こんにち》、鬢糸《びんし》、禅榻畔《ぜんとうはん》、茶煙軽※[#「風にょう+昜」、第3水準1−94−7]《さえんけいよう》、落花《らっか》の風――」
それは、杜牧《とぼく》の詩であった。朗々たる声だ。その朗々たる声で、うたいながら龍造寺主計は、奇妙な楽を奏しているのであった。彼は、琵琶師《びわし》が琵琶を弾ずるときのように、長剣を、きっさきを上に、膝のうえに斜めにかまえて、声
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