を重ねてかかえたお高が、そっとはいって行った。
はでな色が、不意に動いたのにおどろいて、三人は一時にお高を見た。
「お使いですかい」
内儀《ないぎ》同様のお高なので、このごろでは、男たちも、改まった口をきいているのだ。
「あい。ちょっと行ってもらいましょうよ。三人手分けをして届けてもらうのですよ」
「ようがす」三人は、いっしょに手を出した。
「あっしは、どっちをまわるのですね」
お高は、一つだけ残して、佐吉と国平と滝蔵に状箱を振り当てて、それぞれゆく先を教えた。滝蔵が、お高の手に残っている一つに、眼をとめた。
「それは、どうするのですね。誰か持って行かねえでも、いいのですかね」
「これはいいの」お高は、あわてて、その状箱を隠すようにした。
「これは、あたしが持って行くから――」
それは、若松屋あつかい磯五より、高音さまへ、とある、あれだった。
客
一
あくる朝だ。
松の影が、たたくように障子に揺れている。朝ももう、正午《ひる》近く進んでいることがわかるのだ。若松屋惣七は、石のようにむっつりして、寝床からたった。お高は、きのうから顔を見せない。ど
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