、あのおせい様とかいう四十島田はお前さんにこれったけじゃあないか」お駒ちゃんは、歩きながら、じぶんの首へ手をやった。
「あんなに参っているとは、思わなかったよ。女同士だもの、眼いろでわからあね。嫉《や》けてくるよ」
「何をいやがる。それもこれも、てめえに楽をさせようためのいわば商売じゃあねえか。あだやおろそかには思うめえぞ」
「はいはい。まことにありがとうございます――お前さんは、口がうまいからねえ。かなわないよ」
 磯五とお駒ちゃんは、声をあわせて、笑った。そこは、御成街道《おなりかいどう》が広小路《ひろこうじ》にかわろうとする角《かど》であった。一方に、湯島天神《ゆしまてんじん》の裏門へ登る坂みちが延びていた。そこのところに、辻《つじ》待ちの駕籠屋《かごや》が、戸板をめぐらして、股火《またび》をしていた。そこから、二|梃《ちょう》拾って日本橋へ走らせた。いつのまにか、空気が寒くひき締まって、降雪《ゆき》を思わせていた。

      二

 品川の八つ山下の茶店のおやじは、ふと立ちどまった、旅によごれた浪人風の壮漢《おとこ》が、腰掛けに腰かけもしないで、いきなり、江戸で人を捜すのだ
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