たしおり候ことお察し願い上げそろ。今回磯五になりかわり、当若松屋が御督促申しあげ候以上、もはや猶予のお申し出には応じ難く、一両日中に即金二百五十両お払いくだされたく、伏して願い上げ申し候。なおしかるべき御返答これなきときは、ただちに公事におよぶべき手配、当方において相ととのいおり候旨、念のため申し添え候。
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四
「これで、すこしは驚くことであろう」
若松屋は、声をたてて笑う。面白くてたまらないといった、屈託のないわらい声である。それが、けむりか何ぞのように、眼に見えて、軒を逃げて、樹間に象眼《ぞうがん》された冬ぞらへ吸われていくような気がするのだ。
お高は、筆をおいて、ぼんやり戸外《そと》を見あげている。惣七が、いっていた。
「二百五十両も、衣裳《いしょう》を買いこむやつも、買い込むやつだが、貸すほうも、貸すほうだて。全く、笑わせる。女子《おなご》のなかには、度し難いのがおるものだな」
お高が、きいた。物思いから、急にさめたような声だ。
「あの、あて名は、麻布十番の馬場屋敷内、高音と申すのでござりますか」
「さよう。麻布十番の馬場屋敷居住、
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