た。小さな口が、固い直線をつくっていた。どこにも、悲しい影も、苦しい影もなかった。女というより、美少年のようなお高に見えた。戦いぬこうというこころが、一時に彼女を、強く変えて見せていたのだ。
「なるようにしかならぬ。何とかなろう。どうもならぬときは」若松屋惣七は、眼をみはるようにして、お高のほうを向いた。
「なあ、そのときは、そのときではないか。それより、お前のほうは、どうした。それを聞こう」
「どうと申しまして、べつに、申しあげることはございません」
「うそをつけ。帰って来てくれと、磯屋にいわれて、いろいろ話があったことであろうが」
「はい。そういうはなしはございました」
「それを、どうきめたのだときいておるのだ。べつに強《た》って聞こうとはいわんが――」
 若松屋惣七は、ふところに入れていた手を胸元へまわして、がりがりかいた。顔をしかめて貧乏ゆるぎをはじめた。

      六

「どうと申して、またいっしょになるなんぞ、死んでもいやでございます」
「なぜだ」
「なぜでも、いやでございます」
「それで、帰って来たのか」
「はい」
「馬鹿め。磯屋におればよいに。おれのところは、あすに
前へ 次へ
全552ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング