かったなりをした、四十あまりの大年増《おおどしま》だ。
それが、お高の前に丁寧に指をついて、こう挨拶をはじめた。
「いらっしゃいまし。旦那のお妹さんでいらっしゃいますか。おうわさはしじゅう伺っております。わたくしは、磯屋の家内でございます――」
妹
一
おせい様が、わたしは磯屋の家内でございますと挨拶すると、客の若い女はひどくおどろいたようすなので、おせい様はあわてていい直した。
「いえ、まだ、家内――ではございませんが、近いうちにこちらへ参ることになっております。五兵衛さまといっしょになるはずになっておりますのでございます」
女房だといい切ったのを、いい過ぎたと思ったらしく、おせい様は赧《あか》い顔をして自分のことばに笑いながら「こちら様は五兵衛さまのお妹さんでございましょう?」
お高は、びっくりした。三年前に自分をすてた良人だ。それが突然、江戸有数の太物商磯五の旦那として現われたのみか、たった今自分に、すべてを忘れてもとの鞘《さや》にかえってくれ、そうして内儀として、当家《ここ》の帳場へすわってくれと、あんなに面《おもて》に実を見せていい寄ったばかりなのに、いまこの女《ひと》が出て来て、近く磯五の女房としてここへ迎えられるはずだというのは、どういうことであろうか。
それに、五兵衛の妹というのは? ついぞ聞いたことはないが、あの人に妹があったかしら? とっさのことで、お高はさっぱり判断がつかなかった。
磯五が、すぐ来るからといって出て行ったあとだ。お高は、この人はまあいつのまに、そしてどんな途《みち》を通ってこんな大店《おおだな》のあるじとまで出世をしたのであろう? いぶかしく思いながら、何からなにまで珍しい心持ちでそこらを見まわしていた。
瞬間だったが、金剛寺坂の静かな生活が、こころにひらめいて、ひとり残して来た若松屋惣七を、なつかしいと思った。若松屋惣七の長いこわい顔が、眼のまえを走り過ぎた。黙って磯五にぶたれていなすったようすが、いたましく思い出された。日ごろの惣七の気性を知っているので、あのことから何か恐ろしいことになりそうな気がして、ぞっとした。そこへ、いきなり人影がさして、おせい様がはいって来たのだ。
おせい様は自分の家《うち》のように誰にも案内されないで、すべるようにこの部屋へはいって来てすわったのだ。お
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