お高は、そのおせい様のことばがおかしくて、今度は急に、おなかをかかえて笑い出した。おせい様も、お高の手の甲を一打ちたたいて、陽気に笑い出していた。二人は、涙をふきながら長いこと笑いくずれていた。

      三

 日本橋式部小路の磯屋の奥ざしきで、磯五が、十七、八の女を膝にのせてたわむれていた。その女は、お美代といって、奥向きの仕事をする女中であった。お美代は、出入りの鳶《とび》の頭《かしら》の口ききで、草加《そうか》のほうから来ている女であったが、すっかり江戸の水に洗われて、灰《あく》ぬけしてきていた。膚の白い、ぽっちゃりした、眼の涼しい娘だった。
 はじめて来たとき、何であったか、何か菜をつむように台所から命じられて出て来て、中庭に迷いこんでまごまごしているところを磯五に見つかって叱られたことがあるので、磯五には、そのときから、印象に残っている女であった。
 中庭は陽がよく当たらないので、露がおりたように、草がしめっていた。お美代は、磯五に叱責《しっせき》されて、しおしおと台所口のほうへ帰って行ったが、着物を濡らすまいとして、裾を引き上げて歩いていた。ふくらはぎのほうまで見えて、すんなりと蝋《ろう》のように白い脚であった。
 その夜ふけに磯五は、お美代に名ざして茶を持って来させたが、その磯五の寝部屋から、お美代は、朝になるまで帰らなかった。そして、朝になって奥から下げられて来たお美代は、すぐ泣いたり、すぐ笑ったり、つまらないことで赧い顔をして、そわそわしたり、そうかと思うと、しじゅうぼんやりしているお美代になっていた。夜中に、寝巻きの肩をふるわせて、奥と下《しも》のあいだの廊下にしょんぼり立って泣いているところを、朋輩にみつかったりした。
 お美代は、いつのまにか磯五を恋することを教えられていたのだ。
 そのお美代を、磯五はいま膝にのせて、いろいろに膝をゆすぶって、笑っていた。
「そら! 船だぞ」
 磯五が、子供にいうようにいって、そして、抱いている子供にするように、膝を大きく揺すると、お美代は昼日中主人とふざけていることを忘れて、鈴がころがるようなけたたましい声をたてて笑った。磯五はびっくりして、膝をゆすぶるのをよした。
「いけねえよ。美《み》い坊は声が大きいから、はらはらするのだ」
 お美代は笑いを押しもどすように、口に袂を持って行ったが、膝をおりようと
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