金だけふところに納めて和泉屋と関係を切るか、あるいは今までどおり投資しておいて、総支配の方針に関与するか、お高はどっちを取ることもできるので、お高はどういう返答をするであろうかと、集まっている一同がお高の口もとに視線を集めていると、お高は、白く光るような微笑をうかべていい出した。
「それでは、こちら様の商法にわたくしも口をきかせていただきますとして、さしずめ、総本家の皆さまにお願いがありますでございます」
 お高が和泉屋経営の首脳部に割り込んでくるということは、お高を、あきないのことなどわからない普通《なみ》の女であると思っているだけに、集まっている和泉屋の者一同にとっては、かなり迷惑なことでもあり、また業腹《ごうはち》にも感じられた。大旦那の与兵衛などは、明らかにいやな顔をした。
「ははあ、和泉屋のやり口に、何かお気づきの点がおありなので――?」
 猪口才《ちょこざい》なといわんばかりの口調だ。
 お高は、平気だ。いいたいとおりにいうので、こういうことには、お高は強いのだ。
「はい。出店をひとつしめていただきたいのでございます」
「なに、出店を一つしめろと――?」
「さようでございます。小石川の金剛寺門前町にこのあいだできました和泉屋《こちら》の出店でございます。あれをとりいそぎ手を引いていただきたいのでございます」
 皆が立ちさわいで、がやがやしているうちに、お高の声は、ちょっと甲だかに聞こえた。
「昔から小さな店がつづいてきているところへ、こんどこちらの万屋ができたのでございますから、地元の商人《あきんど》は上がったりでございますよ。そのために、ご存じのような騒動もございましたし、それからも、あの町の小売りあきんどで店をしめましたり、夜逃げをしましたりする人が多うございます。
 可哀そうでございますよ。可哀そうでございますから、あの金剛寺門前町のお店だけは、人助けにしめてやってくださいましよ」
 座が一時にしずかになって、眼という眼が与兵衛に向けられた。が、与兵衛は、長いこと答えなかった。そして、やっと答えたときには、それは、集まっている一同をはじめ、お高自身も半ば以上期待していたとおりの文句であった。そういうことはできないというのだった。商法は商法であって、慈悲やなさけではないというのだ。お高は、それ以上何もいわなかった。
 木場の甚とつれ立って深川要橋の家
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