みがこめた。口や態度では示さなかったが、この龍造寺主計は、お高を愛すればこそ、若松屋惣七のために、ひいてはお高のために、ああして救いの手をさし伸べてくれたのである。また、お高というものが存在するがゆえに、こうさらりと両刀すてて、町人も町人、宿場の旅籠の亭主とまでなりさがって掛川くんだりへ行こうとしているのだ。
お高はじぶんの知らないうちに、大きな借金を背負わされているような気がした。しかも、この借りだけは、一生かかっても弁済することはできないのだ。磯屋五兵衛の妻となっているために縛られているからばかりではない。お高のこころとからだは、すでにそれを独占する所有主があるのだ。
二
「とにかく、考えておいてもらおう。掛川へ行っても、今度はそう長くはおらんつもりだ。どのみち、ひとまず江戸へ帰ってくる。そのとき返事を聞きましょう。いや、藪から棒にすまぬことをした。江戸では当節かような談判ははやらぬかもしれぬが、わしは、いままで一介の旅浪人であった。これから諸人を見習うて、もそっとおだやかに切り出すといたそう」
龍造寺主計はそういって、濶達《かったつ》に哄笑《こうしょう》した。龍造寺主計の熱心な顔、黒味のふかい正直な瞳《め》が、お高の胸を苦痛にあえがせた。
このお方は、何もご存じないのだ。そして、自分はいま、なにごともいうことはできない。いったいどうして、このようなことになったのであろう? できない相談に望みをかけていられるのは、あまりに残酷である。
この立派な男性に、単なる厚意以上の何ものもあたえられないとは、そうでなくても、このごろのじぶんは、つづく悩みに打ちのめされているのに、と、お高が、龍造寺主計のために襦袢を縫う針の手をとめて、考えこんでいると、龍造寺主計の声は、なにごともなかったかのごとく、子供のように他意ないのだ。
「わしといっしょになると、旅に出なければならんと思うて、それで二の足を踏むのかもしれんが、さようなことはないぞ。旅は、どこへ参っても同じことじゃ。どこまで行ってもきりがないのだ。そのどこまで行ったとておなじことであるという一事を知るために、旅をするようなものである。
人間は、この一生の旅で、たくさんだ。何も、砂ほこりにまみれ、暑さ寒さとたたかい、風にさらされて歩み、星をながめて眠ることはないのじゃ。さながらおのが骨から肉を引き
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